退職代行はボーナスの前か後か|支給日と退職金の線引き

冬のボーナスまで、あと何ヶ月でしょうか。夏のときも「これをもらってからにしよう」と自分に言い聞かせて、気づけば半年が過ぎた——もし心当たりがあるなら、この記事はあなたのために書いています。

結論を先に言います。ボーナスと退職金は、まったく別のルールで動いています。

ボーナスは「支給日にあなたが在籍しているか」というタイミングの勝負です。1日ずれただけでゼロになることが、法律上も認められています。一方で退職金は、タイミングの話ではありません。就業規則の退職金規程に書かれた条件を満たしているかどうかがすべてで、しかも会社が勝手に減らすには高いハードルがあります。

この2つを頭の中で混ぜたまま考えているから、動く日が決められないのです。

そして、退職代行の本当の使いどころもここにあります。退職代行は「辞める作業を代わってもらうサービス」だと思われがちですが、お金の話が絡む場面では別の顔を持ちます。辞めると伝える日を、あなたが1日単位で選べるようになる。これが、ボーナスの話と直結します。

この記事では、裁判所が引いた線を3本示したうえで、あなたの退職日を逆算で組み立てる手順まで落とし込みます。

あなたが数えているのは、たぶんボーナスの額ではない

少し立ち止まって考えてみてください。

もし今、会社が「来月のボーナスは全額出します。ただし、明日から来なくていいです」と言ってきたら、あなたは喜ぶでしょうか。おそらく、喜びます。心から。

ということは、あなたが本当に欲しいのはお金そのものというより、「ここまで我慢したぶんの見返りを、取りこぼさずに受け取ってから出ていきたい」という感覚なのではないでしょうか。損をしたくないのではなく、納得して終わりたい。

ここに、この記事でいちばんお伝えしたいことがあります。

ボーナスの支給日は、あなたが辞めない理由ではなく、辞める日を決めるための基準日です。

「ボーナスまで待つ」と「ボーナスを基準に逆算する」は、似ているようでまったく違います。前者は待つだけで、支給日が来たらまた次の理由を探すことになります。夏を見送った人が冬も見送るのは、意志が弱いからではなく、基準日のあとの設計図を持っていないからです。

支給日の翌日に何が起きるか。誰に、どうやって、何を伝えるか。そこまで決まっていれば、支給日は通過点になります。決まっていなければ、支給日はただの「また先送りできる日」です。

後者に切り替えるために、まずルールを正確に把握しましょう。

ボーナスが消えるかどうかは「支給日在籍要件」で決まっている

まず、賞与は必ずもらえるものではない

前提として、賞与(ボーナス)には、毎月の給与のような「働いた分だけ必ず発生する」性質がありません。

賞与が労働基準法上の賃金として扱われ、請求できる権利になるのは、就業規則や労働契約で支給条件と計算方法が明確に定められている場合です。「業績に応じて支給することがある」といった程度の定めしかなく、金額が会社の裁量に完全に委ねられているなら、法的に請求できる金額はそもそも確定しません。

だからこそ、最初にやることは決まっています。就業規則の賞与規程を読むこと。 目当ての一文は、たいてい次のような形で書かれています。

賞与は、支給日に在籍する従業員に対して支給する。

これが「支給日在籍要件」です。

支給日在籍要件は、裁判所が有効と認めている

「そんな決まり、後出しで会社に都合がよすぎるのでは」と感じるかもしれません。私も最初にこの条文を読んだときはそう思いました。

しかし最高裁は、大和銀行事件(最判昭和57年10月7日)で、賞与の支給日在籍要件を定めた就業規則の効力を認めています。支給日より前に自己都合で退職した従業員に賞与を支給しなくても違法ではない、という判断です。京都新聞社事件(最判昭和60年11月28日)でも、同様の在籍要件が有効とされました。

つまり、こういうことです。

  • 支給日に在籍している → 原則もらえる
  • 支給日の前日に退職した → 原則もらえない。しかも、これは適法

たった1日の差で結果が反転します。「だいたい月末くらいに辞めれば」という感覚で退職日を決めてはいけない理由が、ここにあります。

退職の意思を伝えた「あと」に減らされるケースもある

もう一つ、多くの記事が触れずに済ませている論点があります。

在籍要件を満たしていても、退職予定者であることを理由に賞与を減額する規定を置いている会社があります。これは有効なのでしょうか。

ここで線を引いたのが、ベネッセコーポレーション事件(東京地判平成8年6月28日)です。この事案では、年内に退職予定の従業員の冬季賞与を、会社が大幅に減額して支給する基準を設けていました。裁判所は、退職予定の有無で賞与に差を設けること自体には一定の合理性を認めつつ、82%もの減額は裁量の範囲を超え、民法90条(公序良俗)に違反すると判断し、認められる減額は2割程度にとどまるとしました。

ここから読み取れる実務上の目安は、こうです。

退職予定者だからという理由だけで、賞与をゼロにしたり大半を削ったりすることはできない。ただし、2割程度の減額なら通ってしまう可能性がある。

そしてもう一つ、見逃せない事実が含まれています。この減額は「退職予定であることを会社が知っている」ことで初めて発動します。支給日より前に退職の意思を伝えるかどうかが、金額に影響しうるということです。

退職金は、まったく別のロジックで守られている

ここでギアを切り替えてください。退職金は、賞与とは論点が違います。

「支給日在籍」ではなく「退職金規程」が根拠

退職金は、退職という事実が発生したことによって支払われるお金です。支給日に在籍しているかどうかを問う性質のものではありません。

労働協約や就業規則であらかじめ支給条件が明確に定められている退職金は、労働基準法上の賃金にあたります。したがって、条件を満たせば請求できる権利です。

ただし支払時期には注意が必要です。労働基準法23条1項は、労働者が退職した場合、権利者の請求があれば7日以内に賃金等を支払うよう定めています。しかし退職金については、就業規則等で支払時期が別に定められていれば、その定めに従うのが原則です。退職の1〜3ヶ月後に振り込まれる会社は珍しくありません。「1週間経っても入金がない=踏み倒された」ではないので、まずは規程の支払時期を確認してください。

会社が勝手に減らすには、高いハードルがある

「退職代行を使ったら退職金を減らされるのではないか」——この不安は、はっきり否定できます。

退職金の減額・不支給について、いまも基準として引かれ続けている判決があります。小田急電鉄事件(東京高判平成15年12月11日)です。この判決は、退職金には賃金の後払い的な性格と退職後の生活保障の意味合いがあるとしたうえで、退職金を全額不支給とするには「永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為」が必要だと述べました。実際、この事案では従業員に懲戒解雇相当の非違行為があったにもかかわらず、全額不支給は認められず、3割の支給が相当とされています。

懲戒解雇級の事情があってなお、この結論です。「退職代行を使われて腹が立ったから」は、当然ながらここに届きません。 有給を全部消化したことも同じです。

逆に言えば、確認すべきは会社の感情ではなく規程の中身です。自己都合退職の支給率(会社都合より低く設定されているのが通常です)、勤続年数の要件(勤続3年未満は支給なし、といった定めはよくあります)。この2つは必ず自分の目で読んでください。

請求できる期間にも差がある

もし退職後に「支払われない」という事態になった場合、時効の長さも覚えておく価値があります。

給与や残業代を請求できる期間は、労働基準法115条で5年と定められています。ただし経過措置があり、当分の間は3年です。これに対して、退職金を請求できる期間は5年。未払い給与や残業代より、退職金のほうが猶予が長いということです。

ただし、時効を頼りに放置していい話ではありません。証拠は時間とともに消えます。給与や残業代の未払いが同時に起きている場合の動き方は、退職代行で未払い給料・残業代は請求できる?で整理しています。

退職代行の価値は「伝える日を自分で選べる」ことにある

ここまでのルールを、退職代行と接続します。

自分で上司に伝える場合、何が起きるか。ほとんどの人は、こうなります。

切り出す決心がつくまでに数週間。ようやく伝えたら「もう少し考えろ」と保留にされ、次の面談まで1週間。そこで引き止められ、また1週間。気づけば、自分では選んでいない日付で退職日が決まっていきます。

そして最悪のパターンは、この曖昧な期間中に「あいつは辞めるらしい」という情報だけが先に社内を回ることです。賞与の査定は、その空気の中で行われます。

退職代行を使うと、この流れが変わります。

  • 依頼日と着手日を、あなたが指定できる
  • 会社に伝わる日が、あなたが決めた1日に固定される
  • 引き止めの面談で日程が押し流されない

支給日在籍要件もベネッセ事件の減額も、「いつ会社に伝わるか」が効いてくるルールでした。 伝わる日をコントロールできる手段を持つことは、そのままお金を取りこぼさないことにつながります。

これは会社をだますという話ではありません。賞与は過去の労働に対して支払われるものであり、受け取ったあとに退職を申し入れる権利は民法627条1項が保障しています。期間の定めのない雇用契約なら、解約の申入れから2週間で雇用は終了します。会社の許可は要りません。

逆算カレンダーを、いま作る

具体的な手順に落とします。紙でもスマホのメモでも構いません。

1. 支給日を確定させる(給与明細と就業規則)

賞与規程の支給日、または前年の賞与の振込日を確認します。就業規則が手元にないなら、社内システムか、労働基準監督署への届出控えを見られる場所を探してください。それも難しければ、前年の給与明細の日付が実質的な代わりになります。

2. 入金を「確認してから」動く

原則はこれ一本です。振込を目視で確認するまで、退職の意思は伝えない。

支給日より前に伝えると、ベネッセ事件で問題になったような「退職予定者は減額」という規定の対象になる可能性があります。支給日の翌営業日に着手すれば、在籍要件は満たしたうえ、すでに振り込まれた金額があとから動くこともありません。

3. 有給の残日数を数え、退職日を後ろに置く

ここが設計の中心です。退職日は「辞めると伝えた日」ではなく、有給を消化しきった日に置きます。

たとえば有給が20日残っていれば、支給日の翌日に代行が会社へ連絡し、その日から有給消化に入り、20営業日後を退職日とする組み立てが可能です。在籍したまま出社しない期間を作れるということです。

退職時の有給消化は、会社が拒否できません。会社には時季変更権がありますが、退職が決まっている以上、休暇を振り替える先の日がないため、実質的に行使できないからです。詳しくは退職時の有給消化は「権利」だけど、使い方には順番があるを読んでください。

4. 退職金の入金予定日をカレンダーに書く

退職日が決まったら、退職金規程の支払時期から入金予定日を計算し、カレンダーに入れておきます。「まだ入らない」と不安になる日を、あらかじめ潰しておくためです。離職票など書類の到着時期も含めた全体像は、退職後の手続きと届く書類にまとめてあります。

ここでつまずく人が、毎年います

差別化のために、失敗しやすい箇所を具体的に挙げます。私が見てきたかぎり、つまずき方はだいたい決まっています。

同僚に先に話す。 いちばん多く、いちばんもったいない失敗です。「絶対に言わないで」という約束は、あなたが思っているより軽く扱われます。噂が人事に届いた時点で、あなたは「退職予定者」になります。支給日までは、誰にも言わない。これが鉄則です。

「支給日」と「支給月」を取り違える。 「12月のボーナス」と言われて12月末をイメージしていたら、実際の支給日は12月10日だった、という取り違えが起きます。日付単位で確認してください。1日の差が全額の差になるルールです。

退職日を口約束で決める。 退職日は書面で残る形にしてください。代行経由なら、会社とのやり取りの記録が残るサービスを選ぶことです。有給消化日数と退職日が食い違うと、賞与どころか最後の給与計算まで揉めます。

ボーナスの返還を求められると思い込む。 「もらってすぐ辞めたら返せと言われるのでは」という不安をよく聞きますが、賞与は過去の査定期間の労働に対する対価です。受給後に退職したことを理由に返還を求める根拠は、原則としてありません。ベネッセ事件も、会社の返還請求が大部分退けられた事案でした。会社から返還を求められても、その場で応じないでください。

辞めると決めた瞬間に有給を数え始める。 順番が逆です。数えるのは支給日を確定させてからです。先に有給から逆算すると、退職日が支給日より前に来てしまうことがあります。

賞与や退職金が絡む相談は、交渉できる相手を選ぶ

お金の話が絡む退職は、「会社に伝えるだけ」では足りない場面があります。退職日の設定や有給消化は、法的には交渉にあたるからです。

ここに退職代行のタイプ選びが効いてきます。運営元が民間企業だけのサービスは、会社と交渉することができません。報酬をもらって法律事務を扱うことが、弁護士法で禁じられているからです。伝言はできても、「退職日を◯日にしてほしい」という調整はできない、ということです。タイプごとの違いは退職代行会社の選び方で詳しく整理しています。

有給消化と退職日の調整まで踏み込みたいなら、労働組合と連携して交渉権を持つタイプが現実的です。たとえば退職代行Jobsのようなサービスが該当します。

すでに「賞与は出さない」「退職金は規程どおりには払えない」と会社から言われている、あるいは未払い残業代の請求も同時に考えているなら、法的な請求まで踏み込める弁護士型が安全です。弁護士法人みやびのような弁護士が対応するサービスなら、金銭請求そのものを任せられます。

いずれも、料金・対応範囲・追加費用の条件は必ず公式サイトで確認してください。どのタイプが自分に合うか迷うなら、退職相談ガイドの30秒チャートで絞り込めます。相談した時点では、まだ何の義務も発生しません。

まとめ

整理します。

  • 賞与は支給日在籍要件で決まる。支給日前の自己都合退職なら不支給でも適法(大和銀行事件)
  • 退職予定者への減額は、2割程度が限度。8割超の減額は公序良俗違反(ベネッセ事件)
  • 退職金は別ルール。全額不支給には「永年の勤続の功を抹消するほどの重大な不信行為」が必要(小田急電鉄事件)。退職代行の利用は理由にならない
  • 動く順番は、①支給日を日付単位で確定 → ②入金を確認 → ③翌営業日に代行が連絡 → ④有給を消化しきった日を退職日に置く

最後に、もう一度だけ。

ボーナスは、あなたが辞められない理由ではありません。辞める日を決めるための、カレンダー上の一点です。支給日の翌朝に何が起きるかを今日書き出しておけば、その日はあなたにとって「また先送りできる日」ではなく、「動く日」になります。

去年の冬も、その前の夏も、同じ場所で立ち止まったのではありませんか。今年の支給日を、3回目にしないでください。

他にも気になることがあれば、整理ページに戻れます。

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